同業グルメ

引き算の先にある正解

こうひいはうす

カレー・インド料理
北海道札幌市

鶏出汁と揚げ野菜だけで勝負する引き算のスープカレーと、店主こだわりのコーヒーが静かに共存する一軒。

コンセプト商品ホスピタリティ空間価格
とにかくおいしい忘れられない

有澤まりこ

飲食業界

株式会社サンラサー

東新宿サンラサーオーナーシェフ

有澤まりこ

札幌に、観光ガイドには載らない場所がある。街の中心部からすこし離れた、地元の人間でもわざわざ行かなければ辿り着かないような場所に、「こうひいはうす」はある。スープカレーとコーヒーの店だ。

引き算の思想で炊いたスープ

スープカレーというのは、出汁のコントロールがすべてだと思っている。何を入れて、何を煮込んで、どこで火を止めるか。豊かさを積み上げていく方向で勝負する店が多い中、こうひいはうすのスープはその逆を向いている。

鶏の出汁と、揚げた野菜の素直な甘み。その二つをメインに構成された一杯は、一口目にほんの少し拍子抜けするかもしれない。華やかな複雑さがない。骨格だけで立っているような、そういう味だ。だが食べ進めるうちに何かが変わる。スプーンを重ねるたびに、余計なものがないことの清潔さが体に馴染んでくる。食べ終わる頃には、この味以外に正解はなかったと、腹の底から納得している。

誤解を恐れずに言えば、「おいしすぎないおいしさ」だ。喉越しで刺さるような旨味の強さではなく、しずかに体の中に降りてくるような充実感。トッピングを重ねれば誰が食べても笑顔になる仕上がりになる。それでもシンプルなままで食べることを、一度は試してほしいと思う。この店のスープカレーの本質は、引き算の先にある。

コロッケという名の北海道

サブメニューのコロッケに手を出したとき、思わず箸を置いて皿をまじまじと見た。衣の火入れは均一で、割った断面から立ち上がる湯気に、じゃがいもの甘さと密度がある。北海道の野菜が持っているポテンシャルを、これ以上ない形で引き出している一品だ。

スープカレーに集中しがちな手が、コロッケの皿に向かうと止まらなくなる。シンプルな揚げ物が、素材の良さを正直に伝えるためにどれだけの判断を必要とするか。衣の厚さ、油の温度、揚げ時間の読み。その一つひとつが正確に積み上がったときにしか出ない味がここにある。

親父さんとコーヒーと、その順番

食後にコーヒーが来る。

この店にはコーヒーがある、というよりも、スープカレーとコーヒーはひと続きの体験として設計されている。店主は無愛想に見える。最初の注文のやりとりは短くて、余計な言葉がない。だがコーヒーを運んでくる頃には、顔つきが変わっている。ニコニコとしている。食べ終えた人間にコーヒーを差し出すとき、はじめて本領を発揮するような人だ。

この順番は計算なのかどうかわからない。ただ、スープカレーで腹を満たし、コロッケで北海道の地力に触れ、そこへコーヒーが届く流れは、食事の着地として理にかなっている。最後の一杯が、食事全体をきれいに閉じる。

街の外れにある確かな仕事

観光客が足を運ぶエリアではない。アクセスを調べれば、わざわざ行く店だとわかる。それでもここに来る人間がいるのは、この店がやっていることに、誤魔化しがないからだと思う。

引き算のスープカレーという発想は、スープカレーの世界においてかなり異端だ。出汁の複雑さとトッピングの豊富さで勝負する方向性が多数派の中で、あえてそれをしないという選択は、恐ろしく自覚的でなければできない。何を足さないかを決めることは、何を足すかを決めることより難しい。この店のスープカレーは、その難しさに正面から向き合っている。

カレーを作る立場から言えば、一度は食べておくべき一杯だ。これだけのために札幌の外れまで行く価値がある。

店舗情報

こうひいはうす

カレー・インド料理

北海道札幌市日本、〒064-0920 北海道札幌市中央区南20条西15丁目2−3

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