同業グルメ
炭と薪と藁が語る物語

炭と薪と藁が語る物語

酉囃子 (とりばやし)

焼鳥・鳥料理
東京都港区

備長炭・薪・藁を使い分け、香りとテクスチャで一皿ごとに表情を変える、コース全体に物語を宿した焼鳥

コンセプト商品ホスピタリティ空間価格
間違いない
マイベスト

本田雅一

ライター

ジャーナリスト

本田雅一

初めての夜、圧倒された。それも焼き鳥屋にだ。

「酉囃子」という店がある。麻布十番に構えるこの店で"おまかせ"を一通り食べ終えると、しばらく言葉が出なかった。カウンター越しに焼き台を観ていた。

串を返す手、炭の熾り具合、そして炎が舞い上がる薪、そして焼き台の前で真剣に素材と語り合う様子を目で追い、工夫のひとつづつが僕の舌を満足させてくれることを確認した。

これほど満足な時間を、初めて訪れる空間で愉しめるなんて。人生の中でも、そうそう頻繁に訪れるものではない。

火と煙が、一皿ごとに語りを変える

焼き鳥の仕事は、突き詰めると「火と素材と串」だけの世界だ。余計なものが入る余地がない。だからこそごまかしが利かない。酉囃子は提供する串ごとに鳥の品種、味わい、焼き方、串の打ち方までを変えている。そして他の店にはない面白さ。それが備長炭、薪、藁を使い分けてテクスチャと香りを制御していることだ。

備長炭が生む熱は遠赤外線は穏やかな浸透で、肉の芯まで均一に火を入れる。 薪はそこに揺らぎと香りを加える。 藁は一瞬の炎で表面に焦げの印象を刻む。

それぞれがまったく異なる火。それを親方は一品ごとに選び、使い分けているのだ。何をどの火で、どの距離で、どのタイミングで仕上げるかという判断が、コース全体を通じて貫かれ、しかもどの串(皿)もしっかりとコースの中での役割がある。

焼き鳥の串

焼き鳥の串

ある串はしっとりと柔らかく、続く串は表面がパリッと割れる。香りも、燻された深みから始まり、藁の野趣のある刹那の煙、備長炭のクリーンな輪郭へと移り変わる。

焼き鳥の串

焼き鳥の串

焼き鳥の串

焼き鳥の串

焼き野菜

焼き鳥の串

焼き鳥の串

一品料理

焼き野菜

親方はなぜこう工夫したのだろう?食べながら、そんな想像の世界を旅し、自分がどこにいるのかを少し忘れるような感覚に入っていった。

女将が選ぶワインが、料理をもう一段階動かした

日本酒の選定が丁寧であることは、いうまでもない。しかしもう一つ加えるならば、ソムリエ出身の女将が選ぶワイン。串とのマリアージュを意識したグラスワインの選び方が、食事の質をさらにもう一段引き上げてくれる。

焼き鳥とワインという組み合わせに、あまり必然性を感じないひともいるかもしれない。しかし、ここではグラスワインを、少なくともひとつは加えたい。

炭の香りをまとった串に、アルコール感控えめのブーケのようなブルゴーニュが添えられる時、はっきりと僕の鼻腔が喜ぶ様子を感じ取れた。煙の余韻とワインの酸がぶつかるのではなく、互いを引き立て合っていた。

勝てる気がしない、という感覚

料理のプロに対して使う言葉ではないだろう。しかし、敢えていうなら「勝てる気がしない」。親方は気さくな人柄だが、柔らかな接客の中にも頑ななオーラを身に纏う。その情熱、生み出される感動に圧倒され続け、何かの感想を言葉にすることすら難しいと感じる。

それは静かな"降参"に近い。

焼き鳥の串(レバー)

つくねと卵黄

〆の麺

〆の丼

デザート

食べ終えた後、しばらくは炭の余熱が身体のどこかに残っているような気がして、その名残を惜しみながら店を後にした。

店舗情報

酉囃子 (とりばやし)

焼鳥・鳥料理

東京都港区日本、〒106-0045 東京都港区麻布十番1丁目6−9 ARUGA22 4階

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