
手が止まらない、という幸福
沖縄丸鶏製造所 ブエノチキン
「ニンニクとハーブをたっぷり詰め込んだ丸鶏の焼きたてが看板の、沖縄を代表するテイクアウト系チキン専門店。」
浦添まで飛んで、熱々を頬張ってきた。
沖縄のチキン文化を語るとき、この店を外すことはできない。「沖縄丸鶏製造所 ブエノチキン」。名前を聞けば沖縄好きなら誰でも反応する、あの店だ。浦添にある本拠地に足を運んで、改めてその実力を確かめてきた。
ニンニクとハーブとビネガーの暴力
丸鶏の腹腔にニンニクとハーブ、ビネガーをこれでもかと詰め込んでローストする。シンプルに言えばそれだけのことだが、この「これでもかと」の部分が全てを決めている。ビネガーの酸が脂をほぐし、ハーブの香りが皮の内側からじわじわと滲み出て、ニンニクが全体を束ねる。焼き上がった皮はパリッと音を立てて割れ、肉の断面からは透明な肉汁がにじむ。火入れは均一で、胸でも腿でも同じ温度感が続く。これは丸鶏を均質に加熱するための温度管理が徹底されている証拠で、簡単そうに見えてかなり難しいことをやっている。
焼きたてをその場で食べ始めると、手が止まらなくなる。止まらないというのは比喩ではなく、物理的に手が動き続けている状態だ。ニンニクとハーブの香りが口の中で爆発して、次の一口を急かしてくる。ローストチキンがこれほどの中毒性を持つのは、素材に対してスパイスとアシッドのバランスが正確に組まれているからだと思う。
汁におにぎりを浸す、という行為
焼き鳥の文脈で最も見落とされがちなのが、肉を焼いたあとの「残り汁」だ。ブエノチキンではその汁がただの副産物ではない。ニンニク、ハーブ、ビネガー、鶏の脂と肉汁が混ざり合った液体は、それ自体がソースとして完成している。おにぎりをそこに浸す。白い米がその汁を吸い込んだ瞬間、全く別の食べ物になる。米と鶏汁の組み合わせは世界中にあるが、ここまでパンチのある汁に白米を浸けるというのは、食い物の使い方として極めて正直で、潔い。これを試さずに帰ってきた人には、もう一度行くことを強く勧める。
書いているこちらが今すぐ飛行機に乗りたくなっているのだから、説得力は十分あるはずだ。
店で食べる理由、それだけで行く理由
ブエノチキンは那覇空港の売店でブエノ弁当を扱っており、冷凍とチルドの通販もある。沖縄に来られない人がアクセスできる導線は十分に整っている。弁当のクオリティは旅行者への土産として十分に機能しているし、チルドで取り寄せれば自宅でも食卓に載せられる。それは間違いなく本物の味だ。
ただし、店で食べるのとは別の話である。
熱々の状態で皮がパリッとしている瞬間は、時間とともに失われる。ニンニクとハーブの香りが最も立つのは、焼き上がりから数分以内だ。弁当やチルドはその先にある「持続する旨さ」を届けるものであって、「一瞬の頂点」を届けるものではない。その頂点を体験するためには、浦添まで足を運ぶしかない。汁におにぎりを浸す行為も、店頭でしかできない。
沖縄に用がある人間は全員、ここに寄るべきだと思う。用がない人間は、用を作って寄るべきだと思う。
店舗情報
沖縄丸鶏製造所 ブエノチキン
沖縄県浦添市日本、〒901-2121 沖縄県浦添市内間2丁目11−15
