
沈黙が語る焼き場
やきとりshira
「淡海地鶏と銀の鴨を軸に据え、ブルゴーニュワインと行き届いた接客が揃う世田谷の焼鳥一軒。」
東京・世田谷に「やきとりshira」という焼鳥屋がある。気になっていた店で、ようやく訪れることができた。焼肉とホルモンを専門とする自分にとって、焼鳥という隣接ジャンルの仕事を見ておくことは、鶏を扱う基本の火入れや素材選びの観点から、無関係ではない。

淡海地鶏と鴨、素材の選択が語るもの
この店が使う鶏は、淡海地鶏だ。滋賀県産のブランド地鶏で、流通量が限られており、扱っている焼鳥屋はそう多くない。東京でここまで絞り込んで一種の地鶏に集中している店は、ここしかないのではと思う。
淡海地鶏はしっかりとした筋肉質の鶏で、歯応えと旨みが強い。皮目には適度な脂があり、炭火で炙られると甘みが前に出てくる。自分が扱う肉とは種が違うが、火入れの考え方は共鳴するものがある。表面をしっかり焼き固めて旨みを閉じ込めながら、中はギリギリのレア感を保つ。その温度帯の制御が、この店は精度が高い。焼肉の場合は食べ手が自分で焼くが、焼鳥は全工程を職人が管理する。その分、一串に込められた判断の密度が違う。






さらに、青森産の銀の鴨も追加した。銀の鴨は脂の乗りと赤身のバランスが際立っており、鴨としての主張がはっきりしている。淡海地鶏とは対照的に、よりジビエに近い野性的な風味がある。同じ鳥でもこれだけ表情が違うことを、一度の訪問で確認できた。



ブルゴーニュワインと焼鳥の話
酒の選択が面白かった。ブルゴーニュワインが豊富に揃っていた。焼鳥にブルゴーニュというのは、考えてみれば理にかなっている。ピノ・ノワールの軽やかな果実味と適度な酸は、炭火の香りと鶏の脂と干渉せず、むしろ互いを引き立てる。主張が強すぎない。


焼肉の店でワインを出す場合、赤は重めのものを選びがちだ。肉の力に負けないようにという発想から来る。しかしここでは逆で、素材が上質なほど合わせる酒は繊細になる、という方向性を徹底していた。この判断は、正直参考になった。素材の質と酒の質を同じ軸で揃えるという考え方は、自分の店で見直すべき部分がある。
寡黙な店主とチームの仕事
店主は言葉が少ない。余計なことを言わない。それが構えた感じではなく、自然な静けさとして場に溶けているのが面白かった。焼くことだけに集中しているという印象で、カウンター越しに炭と向き合う背中には無駄がない。
一方でスタッフの気配りは隅々まで行き届いていた。グラスが空きかけたタイミングで声をかける。追加の串の提案が押しつけがましくない。お客がどこを見ているか、何を必要としているかをよく観察しているのが分かる。店主が口数少なく焼きに専念できるのは、この周囲の仕事があってのことだ。

焼肉屋でも同じことが言える。焼く人間が焼くことだけに集中できる環境を、チームが作るかどうか。接客の動線が乱れると、焼き手の判断にも雑味が出る。この店はその分業と信頼関係が、外から見ていても整って見えた。
自分の店との距離
素材の絞り込み方、酒との組み合わせの思想、そしてチームの仕事の精度。三つの点で、この店は自分の店を上回っていると率直に感じた。扱う食材が鶏と牛豚ホルモンで異なるため、直接の比較はできないが、「一種の素材に集中して深く掘る」という姿勢は、こちらが学ぶべきものだ。


この店のように、素材を絞り込んでそこに全力を向ける構造は、焼肉においても有効なはずだ。品数が多いことと、一品の完成度が高いことは別の話だという当然の事実を、改めて思い知らされた訪問だった。
店舗情報
やきとりshira
東京都世田谷区日本、〒154-0022 東京都世田谷区梅丘1丁目22−1 Y’sステート 地下1階
