
焼肉おじさん、伝説は住宅街で静かに続く。
焼肉おじさん
「武蔵中原の名店「どうげん」の系譜を引く、コスパと提供速度を兼ね備えた大田区沼部の町焼肉店。」
「焼肉おじさん」という名前を聞いて、どんな店を想像するだろうか。
「気の抜けたユルい看板。おじさんが一人で黙々と肉を切って提供している、こぢんまりした小屋のような空間。」そんなイメージが頭をよぎるかもしれません。ところが実際に沼部駅を降りていくと、白くスタイリッシュな店構えが目に飛び込んできます。そのギャップに一瞬立ち止まる。

沼部。福山雅治の名曲「桜坂」の舞台として知られるこの静かな住宅街は、桜の季節が終われば"グルメ空白地帯"と呼んでも差し支えないエリア。その地に、東京の焼肉好きたちがじわじわと足を向けている店があります。「焼肉おじさん」。一度聞いたら忘れられない。SNS上で「名前のインパクトで来てみた」という声が絶えないのも、むしろ必然でしょう。
伝説の焼肉を、沼部で継ぐ
この店を語るには、かつて武蔵中原に存在した名店「ホルモンセンター どうげん」から始めなければなりません。「医食同源」に由来する店名を持つどうげんは、昭和から地元の人々に愛され続けた町焼肉の象徴でした。炭火の七輪を囲み、煙をもうもうと上げながら塩ハラミやカルビ、ホルモンを頬張る。週末には2〜3時間待つのが当たり前で、5000円もあれば飲んで食べて腹いっぱいになれました。ある種のユートピアでした。私自身、100回以上は通い詰めました。当時某チェーン店に行くくらいなら車を走らせて向かうべき店だと、心から思ってました。

それが建物の老朽化とともに閉店しました。あの塩ハラミと、煙の匂いと、賑やかな喧騒、そして若かりし日の仲間との思い出は、記憶の中にだけになったのです。

焼肉おじさんは、そのどうげん難民たちにとって「伝説の再来」として映っています。食べログの口コミにも「どうげんの移転再現だ」という声が目立ち、実際にメニュー構成はどうげんと重なる部分が多い。昔からどうげんに通い続けたファンにとって、沼部の地下にその記憶を手繰り寄せる場所が生まれたことは、静かな喜びなのです。
変わった点もあります。炭火七輪から無煙ロースターへの転換は、正直に言えば少し寂しい。炭の香りをまとった肉の風味は、何物にも代えがたいものがあります。ただ、服や髪に煙の匂いがつかないことを考えれば、トレードオフとして受け入れられる。本質である肉のクオリティとボリューム、そして価格は、物価高騰のご時世にあっても驚くほど誠実に守られています。

この店の本気は、この7品で知る!
いつ行っても安定したクオリティで、満足度が高い7品があります。独断と偏見を承知の上で、押さえるべきものを挙げていきます。
塩ハラミ。これがまず看板です。厚切りなのに繊維がほどけるように柔らかく、ニンニクの効いた塩ダレとの相性が白飯への欲求を際限なく高める。白飯と相性が良いのです。1人前8枚前後、食べ応えは十分にあります。タレハラミはその味違いで、甘すぎないコクのあるタレと肉汁が混ざり合う瞬間に、町焼肉というものの奥行きを改めて再確認できます。


タン塩はタン元のみを使う。この一点に妥協がありません。柔らかさと脂の旨味は都内の高級店と並べても遜色のない水準で、それをこの価格で出してくれることに、軽い眩暈を覚えます。ロース塩は赤身好きのための一皿で、塩ダレが揉み込まれた肉を軽く炙るだけで十分。余計な脂がなく、肉本来の旨味が前に出てきます。


おじさんサラダともやしナムルは、肉との対話を助ける名脇役。名前こそユーモラスだが、絶妙な甘さと旨味のドレッシングで胃を整える役割を果たし、山盛りのもやしナムルはゴマ油の香りで食欲をさらに引き上げてくれます。どちらもハーフサイズが選べるのもありがたい。どうげん時代の「どうげんサラダ」を思い出す方も多いはずで、変わらず多くのお客様が頼んでいる一品です。


そして、ミノ刺し。これは外せません。焼肉屋でもなかなか見かけないメニューで、大きく切り分けられ軽く湯通したきれいな色のミノが皿に並ぶ。まったく臭みがなく、プリッとした歯切れが心地よい。酢味噌を添えても、そのままでもおいしい。高級店でさえ見かけないこの一皿が、ここでは当然のように出てくるのです。

1つ注意点。それはどれも量が多い。注文の際はまず1人前からが基本。
1時間で完結する、大満足の時間。
焼肉おじさんには、もう一つ際立った特徴があります。それは提供スピード。注文してからテーブルに料理が並ぶまでの速さは、忙しい夜でも「1時間あれば満腹で帰れる」を実現させてます。うまい、安い、早い。それが町焼肉の本来の姿だということを、この店は淡々と証明しているのです。
サービス精神も旺盛。烏龍茶を頼もうとすると、「麦茶なら無料ですよ」と教えてくれます。その一言が、どうげんの頃から変わっていない「肉をたくさん食べてほしい」という心遣いを感じます。気取らず、押しつけず、ただ正直に迎えてくれます。ホルモン類もスープ類も含め、メニュー全体を通じて手を抜いたお皿が出てきません。どれもおいしい。
予約は不可。足を運んで待つスタイル。それが"町焼肉らしさ"を演出しているのだと感じるし、待った時間が肉の旨さをさらに底上げすることも確かです。

沼部という静かな住宅街の地下に、東京の町焼肉好きが辿り着くべき場所があります。「焼肉おじさん」とは、キャッチーな店名の奥に武蔵中原の記憶を宿した、まぎれもない本気の店なのです。
焼肉おじさん Instagram:@yakiniku_oji3
店舗情報
焼肉おじさん
東京都大田区日本、〒145-0072 東京都大田区田園調布本町29−2 ウェル田園調布 B1
