地酒を継いだ女将の塩加減
ほおづき
「神奈川の地酒全蔵を揃え、マグロのオリーブオイルマリネなど独自の和食を提供する、女将が受け継いだ横浜の小料理屋。」
横浜に、静かに続いている店がある。小料理屋という言葉がよく似合う、そういう場所だった。
地酒が並ぶ、その奥行き
引き戸を開けると、カウンターの奥に酒の瓶が並んでいた。神奈川の地酒を全蔵揃えているという。県内の蔵元をこれだけ網羅しようとすれば、仕入れのルートも、保管の手間も、それなりのものになる。棚を眺めながら、その地道さを思った。
神奈川の日本酒は、全国的な知名度でいえば決して派手ではない。それでも、地元の米と水でつくられた酒には、土地の記憶のようなものが宿っている。その一蔵一蔵を丁寧に揃えているという事実が、この店の姿勢を端的に示していた。料理と合わせながら、いくつか試した。どれも癖がなく、食事の邪魔をしない。そういう酒ばかりが揃っているのは、偶然ではないだろう。
火入れの確かさ、手の丁寧さ
料理はどれも、過不足がなかった。素材に寄り添うような仕事で、主張しすぎない。和食の小料理屋としての基本線を、きちんと守っている。
なかでも記憶に残ったのが、マグロのひと皿だった。オリーブオイルでマリネしてある。醤油ではなく、塩を添えて出てくる。和食の文脈にいながら、素材の扱いが少し違う。オリーブオイルに漬けることで、マグロの赤身は表面が穏やかに閉じ、内側のしっとりした質感が保たれる。塩をつけると、油の丸みと赤身の旨味がはっきり輪郭を持つ。箸を持ったまま、しばらくその構造を考えた。
珍しい組み合わせではあるが、違和感はなかった。むしろ、なぜこうしたのかがわかる。洋の技法を取り込むことで、素材の持ち味を別の角度から引き出している。それが料理として自然に着地しているのは、下地に和食の感覚がしっかりあるからだと思う。
女将が引き継いだ場所
店は、女将が事業承継している。誰かから店を受け取り、続けていくという仕事は、始めることとはまた別の重さがある。先代が積み上げた時間を背負いながら、自分の色を出していく。そのバランスは、外から見ていても簡単ではないとわかる。
この店の場合、その継ぎ目があまり見えない。料理にも、空間にも、無理に変えようとした痕跡がない。受け継いだものを丁寧に扱いながら、現在の店として成立させている。女将の立ち居振る舞いも静かで、カウンター越しに過剰なものが伝わってこない。それがかえって、居心地をつくっていた。
横浜という街は、港町ゆえの雑多さと、住宅地の落ち着きが混在している。ほおづきは、その静かなほうに属している店だった。派手さはない。けれど、来るたびに同じ水準のものが出てくる店というのは、長く通える店だということでもある。
店舗情報
ほおづき
神奈川県横浜市日本、〒231-0013 神奈川県横浜市中区住吉町5丁目63
