
想像を超える一皿に出会える店、「和食や 太いち」の魅力
和食や 太いち
「ミシュラン店出身の店主が1人で30品を仕込む、5年連続ビブグルマン選出の大岡山の実力派和食店。」
一度行くと、また行く。気づいたらまた行く。そういう店が、世の中には確かに存在します。
大岡山駅から歩いてすぐの場所に構える「和食や 太いち」は、その種の店です。毎年300軒を超える飲食店を訪ね歩き、ほとんどリピートしない私が、繰り返し足を運んでしまう。その事実だけで、この店の力を説明できてしまうかもしれない。
1人と13席、そのあいだにある仕事

カウンター5席、テーブル8席。全13席。 その小さな空間に、グランドメニュー約12品、黒板メニュー約13品、デザート6品。合計30品ほどが並びます。そのすべてを、店主ひとりが仕込み、ひとりが作り上げています。
数字を並べると、どこかピンとこないかもしれません。 でも、実際に店に入って観察すると、その密度の凄みがじわじわと伝わってきます。仕込みだけで一日が終わりそうなボリュームを、毎日淡々とこなしている。 そして提供のテンポは乱れない。早すぎず、遅すぎず、それぞれのお客様の食事のスピードに合わせるように料理が出てくる。
支えているのは、料理提供とドリンクを担当するアルバイトスタッフ。 その動きが、きびきびとしつつ笑顔に力みがなく、自然。 店主が「恵まれている」と語るのも、この笑顔が語っています。お互いの連携プレーがあるからこそ店主も料理に集中できます。
ミシュランの厨房で研いだ刃
店主はもともと、青山にあるミシュラン掲載店で料理長を務めていた人物。その経歴が、一皿ごとに滲み出てくる。
仕込みのスタートは市場。 朝、足を運び、その日並んでいる食材を目で確かめながら、頭の中でメニューを組み立てるとのこと。
試作はしない。本番一本勝負。
その言葉を聞いたとき、なるほどと思いました。
料理が好きであること。 そして相当な努力をしてきたこと。
6年連続でビブグルマンを獲得し続けているのは、その積み重ねの結果にほかならないのです。
黒板に日替わりメニューが並ぶ。旬の魚、今日の野菜、その組み合わせ。眺めているだけで、腹が鳴ります。そして、その期待を料理はいつも超えてくる。

刺身の盛り合わせは、その日いちばんの魚を仕入れ、熟成をかけたり、野菜と組み合わせたりすることで旨みを引き出します。 一切れごとに魚の個性が違う。 箸をつけるたびに、素材の輪郭がはっきりと浮かんでくる鮮度の高さがあります。

牡蠣のパテは、最初の一口で、「これは牡蠣以上に牡蠣だ」と思わせてくれます。 濃厚なのに重くない。雑味がまったく存在しない。牡蠣の旨味だけを丁寧に取り出したとしか言いようのない純度があります。香ばしく焼き上げた食パンに塗れば、海の豊穣と小麦の香ばしさが絡み合い、皿の上で予想外の景色が広がります。

サワラのレアフライ、春菊ソース添え。 衣は軽く、中はしっとりとしたレア仕上げ。 春菊の緑が皿に映え、ひと匙口に含むと、春の苦みがふわりと鼻に抜ける。フレンチの前菜のような佇まいでありながら、根っこは和食の感覚。 この料理には、和食の枠を自由に踏み越える店主の発想が、素直に出ています。

30種類以上の野菜を毎日揃えているというサラダ。 軽く火を入れて食べやすく、そして旨味が濃い野菜はいくらでも食べれそう。

記憶に刻まれる2つの定番
太いちには、外してはいけない名物が2つある。
62℃のローストビーフ。 まず、その形に目が止まる。 端正な立方体に切り揃えられた赤身。低温調理のしっとり感を目で確認してから、フォークを入れる。静かに、しかし確かに肉汁が滲む。角切りという形が生む食感は、スライスとはまったく異なる咀嚼の楽しさをもたらしてくれます。噛むたびに赤身の旨みと甘みが層を成して広がり、余韻は長く続く。シンプルな料理のようで、実は計算が深い逸品。

カツサンドは、その厚みに息をのむ。 驚くほど分厚い。 しかし口に入れると、歯を立てた瞬間にスッとほどける。スポンジのように肉汁があふれ出し、パンに染み込み、カツとパンが一体になって迫ってくる。豪快な外見と、繊細な味わいの落差。噛むほどに旨みが重なり、「これはカツサンドの宝石箱や〜」と思わず声が出ます。 大らかさと丁寧さが同居した、この店の矜持が一番まっすぐに表れている一品です。


最後まで手を抜かない流れ
デザートも、専門店の水準です。 抹茶テリーヌ、チーズケーキ、自家製プリンほか6種類前後が揃います。 抹茶テリーヌはしっとりと滑らか。コクと旨みを持つ濃厚な抹茶の味が、最後の最後に口の中に広がります。改良を重ねてきたという職人の仕事が、テクスチャーに宿っています。それはチーズケーキも同様。 和食店のデザートとして扱うには、もったいないレベルです。


一緒に訪れた飲食業界の経営者も、セミナーを手がける方も、皆一様に黙って皿を見つめる場面がありました。 後から聞くと、「料理を作って食べてもらうことが本当に好きな人だとわかる」「30品をひとりで仕込み提供することは、その気持ちがなければ絶対に続かない」「席をよく見て、提供スピードまで調整している」という言葉が返ってきました。
料理の技術と、仕事への姿勢が本物かどうか、同じ外食の世界で生きている人間の目は正直です。 その眼差しが揃って同じ方向を向いていました。
「和食や 太いち」は、小さな空間に本物が詰まった店。
何か一つが突出しているのではなく、仕込み、仕上げ、提供、デザートに至るまでの流れ全体が、ひとつの呼吸で動いているという感覚。 大岡山というロケーションを差し引いても、一度は足を運ぶ価値があります。
和食や 太いち 東京都大田区北千束3-36-14 ドムスフォルトゥーナ 1F 電話:03-6425-9122 Instagram:@washokuya.taichi2017
店舗情報
和食や 太いち
東京都大田区日本、〒145-0062 東京都大田区北千束3丁目36−14 ドムスフォルトゥーナ1F
