
港町の煙と脂の帰還点
気仙沼ホルモン お福
「遠洋漁業の街に根付いた、生の豚ホルモンを炭火で豪快に焼くローカル名店。」
気仙沼の市街地から少し外れたところに、その店はある。駐車場はいつも車でびっしりで、時間帯によっては外に列ができる。地元の人間がこれだけ足を運ぶ店というのは、観光客向けの看板や宣伝がなくても、何かが確実にある。
炭と煙の向こうに本物がいる
気仙沼ホルモン お福は、名前の通りホルモンを食べる店だ。メニューには肉の種類がいくつか並んでいるが、ここに来てホルモン以外を中心に食べるのは、少し方向が違う。注文すべきはホルモン一択だ。
生の豚ホルモンが、炭火の上でジュウジュウと音を立てながら縮んでいく。煙はガンガン上がり、目が染みるくらいの熱がテーブルに向かってくる。そういう環境の中で、箸を動かし続けるのが正しい食べ方だ。焼き加減を微調整しながら、部位ごとの食感の違いを確かめていく作業が、この店では自然と発生する。
生のホルモンは、冷凍や加工を経たものとは状態が根本的に違う。火入れの反応が素直で、焦がしすぎれば硬くなるし、早すぎれば生っぽさが残る。炭火の輻射熱の中でその判断を続けていると、食べ手の側にも自然と集中が生まれてくる。いろんな部位が一皿に入っているから、厚みのあるものと薄いもの、脂の多いものとそうでないものが混在していて、一口ごとに印象が変わる。単調にならないのが、ホルモン盛り合わせというものの面白さだ。
漁師の街が作った食文化
気仙沼は漁業の街で、遠洋漁業の基地としての歴史が長い。何ヶ月も船の上で魚ばかり食べて戻ってきた漁師たちが、肉を求めた。その需要の積み重なりが、この街の焼肉文化を作ったと言われている。お福のにぎわいを見ていると、その話が単なる説明ではなく、今でも生きている背景なのだと伝わってくる。
満席のテーブルで煙が混じり合い、炭の匂いが服に染み込んでいく。声のトーンが高く、焼き台の音が絶え間なく続く。そういう空気の中で食べるホルモンには、静かなレストランとは別の種類の満足がある。
ざる中華で幕を引く
ホルモンを十分に食べたあと、シメにざる中華を頼む。冷たい麺をすすると、炭火と油煙にまみれた口の中がいったんリセットされる。さっぱりとした後味で食事が終わるこの構成は、実際に試してみると理にかなっていると感じる。焼肉の締めにラーメンや冷麺というのは珍しくないが、ざる中華というチョイスには、この店独自の落としどころがある。
飾りのない店で、飾りのない食べ物が、ちゃんとしている。素材の質と火加減への感覚、その両方を外していない。それが気仙沼の街はずれで、今日も車がぎっしり並ぶ理由だろう。
店舗情報
気仙沼ホルモン お福
宮城県気仙沼市日本、〒988-0123 宮城県気仙沼市松崎中瀬291−3
