
迷った先にある根拠
ネコノワイン
「坂城葡萄酒醸造の直営バーで、猫ラベルのワインと長野の郷土食きゃらぶきを合わせる、筋の通った一軒。」
あっきー
長野駅を出て、少し歩いてみた。観光客が行き交うメインストリートを外れ、裏路地へ折れる。看板らしい看板もなく、「ここでいいのか」と思いながら進んだ先に、ネコノワインはある。坂城葡萄酒醸造が手がけるワインバーで、飲食の仕事をしている身からすれば、醸造元が直営する場所というだけで期待値が上がる。
猫の顔が揃う棚の前で
店に入ってまず目に入るのが、猫のラベルが並ぶボトルの列だった。「ネコパンチ」「猫の額」といった名前が並んでいる。遊び心があるのに軽くない、そのバランスが最初の一手として上手かった。ラベルに描かれた猫のイラストは、店名と一本の線でつながっていて、ブランドとして設計されているのがわかる。
ワインのラベルデザインは、中身と同じくらい売り場での印象を左右する。「ネコパンチ」という名前は、手に取ったことのない人間でも思わず手を伸ばしてしまうような引力がある。長野市内の裏路地で初めて目にしたとき、棚の前でしばらく立ち止まってしまったのは正直なところで、名前の力というものをあらためて考えさせられた。
坂城葡萄酒醸造は、長野県の坂城町に拠点を持つワイナリーだ。長野は近年、ワイン産地として国内外から注目が集まっている。その中で、直営のバーを市街地に構えるというのは、単に販売チャネルを増やすということではない。飲む場を自分たちで用意することで、ワインとそれを飲む人の間に生まれるものを、醸造元が直接見届けようとしているように映った。
きゃらぶきが出てきたとき
食事のメニューを開いたとき、きゃらぶきを見つけた。ワインバーにきゃらぶき、と一瞬だけ思考が止まった。
きゃらぶきはフキを醤油や砂糖で甘辛く煮詰めた保存食で、長野の家庭では当たり前に食卓に上がる一品だ。ただ、ワインを出す場所でこれを選ぶのは、ありきたりな発想ではない。甘みと塩気が凝縮されていて、ワインの酸味と向き合わせたときに何が起きるか、を考えた上で置いているはずだと感じた。
実際に口にすると、きゃらぶきの甘辛い旨味が舌に残るところへ、ワインがすっと入ってくる。土地の食材と土地のワインを合わせるというのは、理屈としては分かっていても、こうして目の前で具体的な皿として出てくると、腑に落ちる感覚がある。洗練という言葉より、根拠のある組み合わせ、という方が近い。
長野らしいものをワインバーのメニューに載せるというのは、観光地化した場所では表面的な演出に滑ることがある。だがここには、地元の食材をワインと真剣に向き合わせようとしている意志があって、それが伝わるか伝わらないかは実はとても大きな差だと思う。
裏路地にある必然
場所がわかりにくい、という話を最後にしておきたい。長野駅からそれほど遠いわけではないが、裏路地に入る必要があって、初めて行く人間は少し迷う。
だが、迷った先にこういう店があると知れば、次は迷わずに向かえる。それはある種の体験として機能していて、「たどり着いた」という感覚が、最初のグラスの価値をわずかに押し上げているかもしれない。意図しているかどうかはわからないけれど、結果としてそうなっている。
飲食の仕事をしていると、立地の良し悪しをつい目的地の絶対条件として考えてしまう。だが坂城葡萄酒醸造が長野市の裏路地でやっているこの場所は、立地を言い訳にしない強さのある店だった。ワインにラベルの猫、長野の郷土食、そしてわかりにくい場所。それらが全部ひとつの方向を向いていて、この店が何者であるかを迷いなく伝えている。そういう店の作り方を、棚の猫たちを眺めながらしばらく考えていた。
店舗情報
ネコノワイン
長野県長野市日本、〒380-0824 長野県長野市南長野南石堂町1366−1 ジャシイ千石センタービル
