
急に食べたくなる、が最高の称号
HUTCHERSON
「世田谷に行列をつくる、定番と季節の創作を擁するスパイスカレーの一軒。」
世田谷区に、並んででも食べに行く店があります。HUTCHERSONという名のスパイスカレーの店です。ボロ市のとき以外に行列なんてできない街に、昼どきになると人が並ぶ。それだけで、すでに何かが違う。

初めて訪れたとき、一口食べて箸を止めました。なんだ、この味は、と。オープン当初は、創作カレーが4種も5種も並ぶメニューを見て、正直なところ少し心配していました。それが今では、並んで待つことを厭わない店になっています。
常時4種、それぞれに理由がある
常時4種のカレーが提供されています。定番の「ほうれん草の粗挽きポークキーマ、山椒カッテージチーズ」と「カツ・ビンダルー」は、メニュー表で見るより食べてから語る料理です。
ほうれん草のカレーは、色から想像する青臭さがありません。粗挽きの豚肉がしっかりと存在感を持ちながら、山椒とカッテージチーズが思いがけない抜け道を作っている。山椒の痺れがじんわりと広がり、チーズのまろやかさが追いかけてくる。重さがなく、それでいてスパイスの輪郭がはっきりとしている。こういうバランスは、計算だけでは出ません。

カツ・ビンダルーは、ゴア地方の酸味の強いカレーに、カツを合わせた一品です。ビンダルーの尖った酸味と辛さが、揚げたての衣にまとわりつく。それがまた、白いライスとの相性を高める方向に働く。食べ進むほどに体温が上がる感覚があります。

どちらも「急に食べたくなる」のが、よくわかります。思い出し方が違う。気づいたら頭の中にあるタイプの味です。
季節とともに変わる喜び
定番に加えて、季節に合わせた創作カレーが提供されます。これが、また来たいと思う理由のひとつです。
スパイスカレーは、素材の選び方と火の入れ方で大きく表情が変わります。同じスパイス構成でも、旬の素材が加わるだけで全体の重心がずれる。ここの創作カレーは、その季節らしさが押しつけがましくなく、自然にカレーの一部になっています。「旬の素材を使いました」という主張ではなく、カレーとして完成した状態で出てくる。その差は、食べれば伝わります。


定番と創作が並んでいる状態で、どちらを選ぶかで少し悩む。その悩み自体が、この店の豊かさです。
場の力まで含めた一食
店内に流れる音楽が、心を解きほぐします。カレーの香りと、空気の温度と、音楽が重なって、不思議と肩の力が抜ける。日常の延長にいながら、少しだけ非日常のような時間があります。
並んで待つ時間も、ここでは苦ではありません。列に並んでいる間から、すでにその一食は始まっています。前の人が席について、厨房から香りが漂ってくる。そのときにはもう、何を頼むか決まっています。
オリジナルスパイスというのは、誰でも名乗れる言葉です。でも、それが本当の意味でオリジナルであるかどうかは、食べた瞬間にわかる。ここのカレーは、どこかで食べたことがある味に着地しません。食べたことのない場所に連れていかれます。それが、毎回新鮮に感じる理由だと思っています。
はっちゃん、いつもごちそうさまです。また並びに行きます。
店舗情報
HUTCHERSON
東京都世田谷区日本、〒154-0017 東京都世田谷区世田谷1丁目15−12 2F
